
自分の死後、残された家族や友人等に何を託したいのか。その意思表示の手段として法律上存在しているのが遺言(いごん)という制度です。
仲が良かった兄弟が父親の相続開始をきっかけに、残された財産を巡って、親族間で諍いが巻き起り、以後犬猿の仲になってしまったというような話を聞くことがあります。このような事態が起こらないよう、遺言者自身が、誰に何を残すのかということ等を具体的に取り決め、残された家族や友人等に対するメッセージとして、遺言を残しておくことが必要です。
(日本公証人連合会HP 遺言Q&Aより抜粋)
【自筆証書遺言】
自筆証書遺言は,遺言者が,紙に,自ら,遺言の内容の全文を書き,かつ,日付,氏名を書いて,署名の下に押印することにより作成する遺言です(すべてを自書しないとだめで,パソコンやタイプライターによるものは無効です。)。自筆証書遺言は,自分で書けばよいので,費用もかからず,いつでも書けるというメリットがあります。
デメリットとしては,内容が簡単な場合はともかく,そうでない場合には,法律的に見て不備な内容になってしまう危険があり,後に紛争の種を残したり,無効になってしまう場合もあります。しかも,誤りを訂正した場合には,訂正した箇所に押印をし,さらに,どこをどのように訂正したかということを付記して,そこにも署名しなければならないなど方式が厳格なので,方式不備で無効になってしまう危険もつきまといます。
また,自筆証書遺言は,その遺言書を発見した者が,必ず,家庭裁判所にこれを持参し,相続人全員に呼出状を発送した上,その遺言書を検認するための検認手続を経なければなりません。さらに,自筆証書遺言は,これを発見した者が,自分に不利なことが書いてあると思ったときなどには,破棄したり,隠匿や改ざんをしたりしてしまう危険がないとはいえません。
また,自筆証書遺言は全文自書しないといけないので,当然のことながら,病気等で手が不自由になり,字が書けなくなった方は,利用することができません。
上記のような自筆証書遺言のもつ様々なデメリットを補う遺言の方式として,公正証書遺言があります。
【公正証書遺言】
公正証書遺言は,遺言者が,公証人の面前で,遺言の内容を口授し,それに基づいて,公証人が,遺言者の真意を正確に文章にまとめ,公正証書遺言として作成するものです。
また,公正証書遺言は,家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので,相続開始後,速やかに遺言の内容を実現することができます。さらに,原本が必ず公証役場に保管されますので,遺言書が破棄されたり,隠匿や改ざんをされたりする心配も全くありません。
また,自筆証書遺言は,全文自分で自書しなければなりませんので,体力が弱ってきたり,病気等のため自書が困難となった場合には,自筆証書遺言をすることはできませんが,公証人に依頼すれば,このような場合でも,遺言をすることができます。署名することさえできなくなった場合でも,公証人が遺言者の署名を代書できることが法律で認められています。
なお,遺言者が高齢で体力が弱り,あるいは病気等のため,公証役場に出向くことが困難な場合には,公証人が,遺言者の自宅又は病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。
以上のとおり,公正証書遺言は,自筆証書遺言と比較すると,メリットが多く,安全確実な方法であるといってよいと思われますが,遺言者の真意を確保するため,証人2人の立会いが義務づけられていますのでご注意ください(適当な証人が見当たらない場合は当事務所の司法書士が証人となることもできますので、遠慮なくお申し出ください)。
【秘密証書遺言】
秘密証書遺言は,遺言者が,遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言と異なり,自書である必要はないので,ワープロ等を用いても,第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で,これを封じ,遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上,公証人及び証人2人の前にその封書を提出し,自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し,公証人が,その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後,遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
上記の手続を経由することにより,その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき,かつ,遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが,公証人は,その遺言書の内容を確認することはできませんので,遺言書の内容に法律的な不備があったり,紛争の種になったり,無効となってしまう危険性がないとはいえません。
また,秘密証書遺言は,自筆証書遺言と同じように,この遺言書を発見した者が,家庭裁判所に届け出て,検認手続を受けなければなりません。
法律上、契約は口約束でも成立することになっています。例えば、コンビニでパンをひとつ購入した場合でも、パンの引き渡しと代金の支払いが行われたという事実から、立派に売買契約が成立しているのです。
しかし、不動産の購入等、重要な契約を締結しようとする場合、果たして口頭による契約で安心できるでしょうか。後日相手方との間で紛争が起こったとき、口頭による契約では、誤解が生じ、言った言わないの堂々巡りとなってしまい、決定的な解決が見込めません。
そこで、お互いの約束事を書面にして明確にし、後日の争いを予防することが必要なのです。また、書面にすることによって、当事者に「契約を守らなければならない」という心理効果が生じますし、仮に争いが生じたとしても、契約書それ自体に訴訟上強力な証拠力がありますので、必ず当事者の合意内容を書面にして残しておくことをお勧めします。
なお、「覚書」「念書」という方式で書面を残す場合がありますが、その法律効果は契約と同等にありますのでご注意ください。
※覚書とは、当事者の合意内容や契約の補足、解釈について確認しておくために作成する略式の文書です。
※念書とは、後日の紛争予防のため、当事者の一方が誓約や承諾すべき事項について、後日の証拠として、念のために作成して相手に渡しておく文書です。